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エコムスホール完成

 2002年5月、アルミニウム合金が国土交通省から建築構造部材としての一般認定を取得しました。これによりアルミニウム造の建築物が国土交通省の個別認定を経ずに各都道府県の確認申請により建築可能となり、ようやく法的に鉄骨造やRC造などと同じレベルでの普及の足掛かりを掴んだこととなります。
 鋼材との比較ではアルミニウムの比重は約1/3、ヤング率が約1/3、線膨張係数は2倍、F値(基本強度)はほぼ1/3~2/3の範囲となります。主要な構造材料である6N01では比強度は(2/3)/(1/3)=2となり、軽量の割に強度をもつ材料と言えます。これはアルミニウムを構造部材として考えた場合、特に変形より強度で断面が決まる1階~2階建ての建築向け部材として適性が高いと考えられています。この他の材料特性として、加工性・高耐食性・リサイクル性・高熱伝導性・高電気伝導性・非磁性体性などが挙げられます。ところでアルミニウム材料を建築部材全般即ち構造・意匠・仕上げ・下地部材全般の中で考えた場合の最大の特徴とは、加工性の良さに起因した高い押出し成形性にあると言えます。押出し成形性の良好さは、鋼材では到底不可能な複雑で高精度な部材断面を成形可能とします。
このことは以下のことを実現可能とします。
①構造部材と仕上げ部材・下地部材の一体化→仕上げ・下地部材の簡略化または省略。
②仕上げ・下地部材と家具・備品類の一体化→仕上げ・下地部材の簡略化または省略。
③自由度の高い断面形状をもつ面材、壁材、ブレース材への展開が可能。
④自由度の高い閉断面成形により、断熱材、防音材、防水材等との組合せによる高機能部材形成が可能。
⑤リブ付き・部分肉厚プレートによる局部座屈防止、二重プレートによる幅厚比増大。
⑥接合用ボルト・ナット溝、タッピングホールを設置可能。
 一方でアルミニウム建築部材のデメリットとしては、剛性が鋼材の1/3、熱膨張が鋼材の2倍、溶融温度が約650℃と低い、鋼材との接触による電触及びコンクリートとの接触によるアルカリ化、高コストなどが挙げられます。剛性と熱膨張は設計・施工上の工夫で解決可能であり、また鋼材との電触は例えば高力ボルトには亜鉛溶融メッキを施し、コンクリートとの接触部ではタール塗りなどにより絶縁することで対処が可能です。
 溶融温度の低さによる防・耐火性不足、遮音性及び高コストに関しては、今後重点的に取組まれるべき課題であると言えます。しかしながら上記①~⑥のメリットとのトレードオフとしてアルミニウム造建築を総合的に評価すれば、既住の建築像を進化・発展させるに十分足る潜在力を有すると考えられます。ecoms hallは、アルミニウム構造材料が一般認定を取得してからの確認申請物件第1号として、SUSが自社敷地内に社員厚生施設として建設しました。アルミニウム造平屋で延床面積214.94、主用途は社員食堂と会議室です。工期は2003年1月20日~5月8日と短工期でした。
 構造形式はメインフレームを十字形柱とダブルウェブ梁の組合せによる門型フレームとし、長方形の平面形状であるため短辺方向をこの門型6m×1スパン、長辺方向を2m×14スパンとしました。使用材料は構造部材のうち十字形柱とダブルウェブ梁はA6N01、その他のアルミニウム部材はA6063とし、いずれも表面保護のため厚さ9µmのアルマイト処理を施しました。十字形柱とダブルウェブ梁の接合は柱フランジとダブルウェブを嵌合した後、溶融亜鉛メッキされた高力ボルト摩擦接合としました。なお、摩擦面のすべり摩擦係数=0.45を確保するため、柱ボルト穴周辺にブラスト処理を行いました。柱脚固定端はコンクリートへの埋込み部分にタールエポキシ塗装を行い、アルミニウム部材のアルカリ化を防止しています。
 断熱は主に屋根面での外断熱とし、外壁では断熱材は用いず開閉窓の採用と箱型断面外壁材内での対流による熱交換を図りました。アルミニウム部材の加工はその殆どをSUSが自社工場にて切断・加工し、工事現場へ支給する自社供給体制としました。これにより各部材寸法の許容誤差を0.5mm以下と高精度とすることが出来、施工精度は通常の鉄骨造より高精度となる柱傾斜角=1/2000以下(一般の鉄骨造は1/1000以下)とすることが出来ました。完成時の建て方計測結果はこの監理目標値を十分満足するものとなっていました。
 このように建築設計及び施工においては「アルミニウム建築構造物製作施工要領書・同解説」に忠実に従い、建築品質の確保に努めました。ちなみに建設費用は、建材を可能な限り自社製作したこととコスト低減に努めたことなどにより、坪単価で約78万円と一般の木造平屋建物のおよそ1.5倍でした。
 ecoms hallでは設計・意匠の基本的な考え方を「見せるアルミ造」としているため、トイレを除く各室には天井を設けず柱梁部材及び屋根デッキプレートなどのアルミニウム部材のアルマイト表面をそのまま露出しています。また外壁面は縦目地の平滑プレートと縦長の開閉窓の組合せとし、アルミニウムの質感にマッチしたスレンダーなファサードとしました。床材は玄関ホールをアルミプレート(表面ブラスト)、社員食堂は明色系パイン材の木質フローリング、会議室をダークグレー色調のフロアカーペットとし、各室の用途目的に合わせた素材フローリングとしました。
 特に食堂及び会議室への入り口ドアにおいては、ドア両サイドの固定ガラスを十字柱(構造部材)に直付けする取り合いとし、前頁①に示しましたような構造部材と仕上げ・下地部材を一体化する斬新なディテールを実現しました。
 主要な家具・備品類はアルミ造建物のクリアな質感にマッチするよう、ecoms fitのアルミオーダー家具であるキッチン1台、ドレッサー4台、テーブル19台、ディレクタチェア25台、スタッキングチェア80台、食堂用収納棚1台を設置しました。今後ecoms hallをecoms fitのショールームとして活用を図ってゆく予定です。
 アルミニウム建材は耐火性や遮音性、高コスト等の課題を持つものの、室内から構造システムを見せ軽快でモダンな空間を創出することが出来る優れた建築素材と言えます。また既に新幹線や飛行機のボディーで使われているような、面材と断熱・防音材を組合わせた高機能部材への発展性を秘めいています。
 ecoms hallはアルミニウム建築の普及に向けた第一歩ですが、それだけでなく今後アルミニウム建材が既住の建築像を進化・発展させる一役を担ってゆくことを期待されます。