アルミ建築探訪

未来に引き継ぐ素材とデザイン~アルミを通して考える環境問題~

未来に引き継ぐ素材とデザイン~アルミを通して考える環境問題~

神奈川県「横浜ベイクォーター」

環境というテーマは本当に奥が深い。今回は、私たちを取り巻く過酷な環境汚染とその実害、そして建築物の寿命について考えてみた。

上質な日常にこだわったデザイン

 横浜の今を象徴する新しい街並みの“みなとみらい”、港町の古き良き時代を彷彿させる赤レンガ倉庫、その先には大桟橋や山下公園、異国情緒に満ち溢れた馬車道、中華街、元町商店街…海を介して広がる大きな1つの景観。この中で唯一、開発が遅れ気味だったポートサイド地区に、高層集合住宅と共に建設された商業施設、それが今回紹介する『横浜ベイクォーター』だ。
 今後は同敷地内に業務施設も建設される予定だと言う。様々な用途を持った建物が渾然一体となった施設の開発は、日本ではまだ珍しいケースであるが、「今後はこうした都市計画が増えていく」と商業施設の設計を担当した北山孝二郎氏は語る。
 「街づくりというのは、次世代にまでその街の魅力を受け継いでいくことだと思います。建物が変わっても都市はそこにずっと残るのですから、その場所を次に利用する世代のためにもクオリティーの高い都市空間を残していくという考えが大切です。環境にゆとりが感じられる質の高い日常を意識してデザインしました」。

腐食・塩害に強いアルミの特性

 港に停泊する大型客船のようにも見える独特の外観。海に向かって緩いカーブを描きながらせり出す白いテラスが、自然な流れで人々を店内へと誘う。シーバスを使った海からのアクセス、横浜駅から繋がる陸からのアクセス。海と陸との境界線という特殊なロケーションを活かした横浜らしいデザインが印象的だ。この建物を象徴するテラスの壁面にはアルミの押出材が使用されている。
 「海に面した場所での使用でしたから、腐食や塩害の影響を考慮して最初からアルミでいこうと考えていました。大きな流れの中に小さなひだで波を打つ様な形をつくりたかったのです。色々と試した結果、この形に落ち着いたのですが、アルミ押出材の特長を活かした面白いものができたと思っています。押出材はパネルと違って素材の質感がよく表れて建物に表情が出るので、とても気に入っています。木やガラス、コンクリートといった異素材との相性もよいので使いやすい素材ですね」。
 以前から多くの建築作品にアルミを使用してきたと話す北山氏。だが腐食に強くさびにくいという特性から、厳しい環境下で使われることも多いアルミ素材も、現代社会を取り巻く環境汚染には苦戦を強いられているのではないかと語り始めた。

私たちを取り巻く環境汚染という現実

 「海辺だけでなく、交通量の多い所や環境負荷が高い場所にアルミは有効だと感じているのですが、残念なことに、17年前に建てたコイズミライティングシアターのイズムという建物で使用したアルミは真っ黒になってしまいました。首都高がすぐ横を通るという立地から考えると排気ガスを浴び、様々な物質が降りかかってきたのだと推測できますが、都心では確実に大気中に含まれる亜硫酸や硫黄の量が増えていると感じています。酸性雨どころか、最近では黄砂なども降ったりしましたからね。近年における大気汚染というのは、私たちが想像している以上に深刻なものになっているのではないでしょうか」。
 イズムと同時期に建てられた建築物を修復する機会が増えたと話す北山氏。鉄で建てたものは錆びがひどく、穴があいている箇所もあって大変ショックを受けた…とも語っている。
 「こうした状況を目の当たりにして、素材選びも環境を意識するようになりました。ベースは自然素材でありながら、化学的な処理を施すことで環境にやさしく、且つ強固に対応できるもの。例えば、廃材や木粉にアルミを薄く巻く…といった建材が出てきてもよいのではと思います。それぞれが持つ素材の特性を活かしながら、環境にも配慮する。そういう心掛けは大事ですね」。

未来に引き継げる建築物のために

 横浜ベイクォーターのような施設の建築的な寿命は、どのように考えて設計されているのか、北山氏に尋ねてみた。
 「やはり50年で建て替えることを1つの目安にしていますね。しかし今は耐震強度の基準がどんどん変わっていきますから、10年くらいのスパンで補強工事をしていかなければならないのが実状です。これからの公共施設は構造強度を高くして100年くらいもつ建物を、その時代に合わせて中身だけリニューアルしていく、というスタイルが理想的だと思います。取り壊して建て替えれば費用がかさむのはもちろん、莫大な量の廃材が出て、また環境を汚染しますからね。そのためにも時代に左右されない普遍的なデザインと、高品質な素材を使った質の高い建築をつくっていくべきだと思います」。
 高品質な素材の1つとしてアルミを挙げてくださった北山氏。価格の問題がもう少し解消されれば、使用頻度も上がってくるのではとのこと。
 最後にアルミをもっと建築に取り入れて頂くために、今後必要なポイントについて伺ってみた。
 「最近では構造材としての利用も可能になったことで、何か新しいものをつくれそうだ…という期待が持てますね。ただ、そのためには法規の壁をどうクリアするか…という点が大きなポイントだと思います。鉄骨なら規格化が進んでいるため、構造計算も簡単にできますが、アルミでは事例が少ないので、この点が厄介です。それから耐火に対する問題も都内あたりでは、まだ難ありでしょう。こうした点がもっと改善されてくれば、使ってみたいと思っている建築家は多いと思いますよ。前号で紹介されていた隅研吾さんの断面を活かしたファサード(ecoms19号 P47~P48)は、見事でしたね。アルミでしか表現できない使い方が今後も多く出てくれば、全く違ったアルミの表現方法が見つかるのではないかと思っています」。

商業プロデュース:北山創造研究所
基本設計:北山孝二郎+K計画事務所
基本・実施設計:三菱地所設計
実施設計:竹中工務店
施工:竹中工務店

撮影:新建築写真部

北山 孝二郎

北山 孝二郎(きたやま こうじろう)

1947年 京都府生まれ
1968年 都市科学研究所入所
1981年 K計画事務所を設立