アルミ建築探訪

光を、自然を、環境を… アルミを通じてより美しく魅せる建築

光を、自然を、環境を… アルミを通じてより美しく魅せる建築

静岡市「静岡大成中学校・高等学校」

アルミパンチングメタルを使った独創的な建築で有名な長谷川逸子氏。今回は、母校でもある静岡の大成中学校・高等学校の新校舎建設にまつわるお話をベースに、建材のリサイクル化、環境問題や屋上緑化など、様々な視点からアルミと建築の融合について語っていただきました。

ユーザーの気持ちをひとつにまとめるワークショップの重要性

― 大変、インパクトのある校舎ですね。竣工はいつ頃でしたか。

 竣工は2004年の8月です。約1年で設計をし、その後の1年で工事を進めていきました。

― 「学校建築」というのは、どういうものだとお考えですか。

 日本は学校建築というものにあまりコストを掛けないんですね。教育の場所にコストを掛けないというのは、大きな問題だと思います。小学校や高校、大学と学校建築をいくつか手掛けてきましたが、計画は比較的自由にできるので、建築家が教育の現場にいろいろな提案をすることが可能です。以前は同じ教室が均一に並んでいる、まるでアパートのような校舎が大量生産されていましたが、今は教育のあり方を一緒に考えていける時代になってきたので、ハード面だけでなくソフト面(プログラム)も考えながら作っていくことができる。そういう点では面白い建築だと思います。

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道路側に面した校舎壁面

― 公共建築をつくる場合は、ワークショップなどを数多く設けられていらっしゃいますが、学校建築ではどうですか。

 先生方とは他の学校の研究などを含め、ワークショップを繰り返し、今後の教育体制を見直そうと意見交換をしてきました。私としては今後ますます多様化していく社会において、子供達が自由に活動でき、自主的に自分の進路を選択できるような多目的スペースをたくさん作っていきたいと提案しました。今までは押し付けられて学校へ来ていたような生徒たちも、自分の人生を思い描ける学校づくりの話には大変乗って来て、いろいろな意見が出ました。

― 具体的には、どんなプログラムを組み込まれたのでしょうか。

 例えば音楽教室は天井の高さを通常の2倍にし、ピアノの独奏会などで一度に100人が鑑賞できるホールのような空間にしました。他に美術や書道、ファッションやクッキング、サイエンスやコンピューター等です。ミーティングや展示に利用できるスチューデントホールなど、生徒の希望でいろいろな空間をゆったりとつくって、その外壁にパンチングメタルを使用しました。

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    アルミパンチングメタルで覆われたファザードが特徴の運動場側・壁面

― 校舎にパンチングメタルを使用するメリットなどはありますか?

 これらの空間は運動場側に面しているため、学校ですから時にはボールなどが飛んでくることもあるわけです(笑)。内側はガラス張りですから、格子のような役割を果たしているんですね。なるべく外が見えた方がいい空間には大きな開口を、音楽教室など落ち着いた雰囲気を必要とする場合には小さな開口を…というように、用途に合わせて使い分けています。熱負荷の低減という機能も持った装置ですが、時には光を柔らかくし、時には木漏れ日の様な演出もするのです。

― パンチングメタルは、いつ頃から建築に取り入れていらっしゃるのでしょうか。

 当初はインテリアとして空間の間仕切りに使っていましたが、「松山桑原の住宅」(1980年)ではじめて外をアルミで囲みました。当時は、小さな穴のものが1タイプしかなく、45度、60度…と自分で開口率を計算して業者に穴を開けてもらい、20~30枚のパネルをオフィスの階段に並べて、光の形の変化などを研究して資料を作ったことがありました。穴の角度と大きさによって光の落ち方が違ってくるので、研究しましたね。それから私の作品には、ずっとパンチングメタルが使われています。

― アルミの魅力とは何でしょうか。

 今のアルミは昔のものよりずっと皮膜が良くなって、汚れにくい。年月を経てもきれいな状態を保っているのは、建築としては大きなメリットだと思いますね。事務所ではアルミの大きな一枚板のテーブルを使用しています。学生が模型などを作るので傷がついてしまいましたが、この傷もなかなかいいものだなと思っています。使い込んだ感じも好きですね。そういう意味では、メンテナンスも特に必要ない素材とも言えるように思います。

「リサイクル」「環境問題」「省エネ」社会情勢とアルミの深い関わり

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光の角度で様々な表情を見せるアルミパンチングメタル

― アルミと言えば「リサイクル性」が注目されますが、以前からこの点に着目されていましたか?

 日本は資源が少ないので、「リサイクル」と言う考え方は、非常に大切だと思います。アルミのリサイクル性については、「松山桑原の住宅」の頃から意識していました。アルミに限らず「再生・再利用できないものは、できるだけ使わない」と言う考えをベースに、建材を選んでいきたいと思っています。

― 環境問題のひとつとして、屋上緑化にも積極的に取り組まれていらっしゃいますね。

 環境づくりは大変です。「松山桑原の家」のお施主さんが非常に美しい庭を作られている方で、アルミパンチングメタルに絡む蔓植物やアルミパネルと緑の芝生はとても美しいです。無機質なものと有機的なものとが融合することで『都市の自然』が生まれたように感じて大変気に入っています。公共建築をやるようになって屋上緑化に取り組んできましたが、緑化すると言うのは単に植木鉢を置くだけではダメなんです。土を盛ることで断熱性能が非常に高まり、夏は涼しく冬は暖かい空間を作り出せる。土と緑がもたらす機能というのは、大変な省エネにつながっていると思います。

― 省エネと言えば、パンチングメタルによる採光も、省エネに役立っていると考えられますが…。

 確かに光のコントロールと言う点で、省エネ効果を発揮していると思いますね。特に『新潟市民芸術文化会館(りゅーとぴあ)』では、太陽の動きや気温にリンクして作動するアルミパンチングメタルの遮光スクリーンが効率の良い室内環境をつくっており、大変な省エネに役立っています。『すみだ生涯学習センター』などは、街が賑わっている日中はパンチングメタルが強調されて中は見えませんが、夜になるとライトボックスの役割を果たし、中の活動が見えるようになる。パンチングメタルが建築の中で、エンジニア的な機能を果たしている点にも、ぜひ注目して頂きたいですね。

― アルミを使って、今後はどんな取り組みをお考えですか。

 以前、アルミハニカムを構造に使ってみようと試みたことがありましたが、当時は許可が下りていなかったため、断念せざるを得ませんでした。今までずっとアルミに携わってきたので、やはり構造でも使ってみたいですね。もちろん、アルミを使った家具は、今までもたくさん作ってきましたが、これからもずっと作り続けていきたいと考えています。

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    ライブラリ(2階)からアルミパンチングメタルを通して外観を望む

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    夕景に浮かびあがるような美しい校舎

DATA
所在地 :静岡県静岡市
設 計 :建築 長谷川逸子・建築計画工房
     構造 MUSA研究所
     設備 森村設計
施 工 :鹿島建設 横浜支店
敷地面積:8,318.98㎡
建築面積:2,894.72㎡(内新校舎建築面積:1,428.66㎡)
延床面積:9,502.00㎡(内新校舎延床面積:6,946.89㎡)
階 数 :地上6階
構 造 :鉄骨造
工 期 :2003年9月~2004年10月

長谷川 逸子

長谷川 逸子(はせがわ いつこ)

1979年長谷川逸子・建築計画工房(株)設立、主宰となる。1986年日本文化デザイン賞、日本建築学会賞を受賞。一方、早稲田大学、東京工業大学、九州大学などの非常勤講師、米国ハーバード大学の客員教授などを務め、1997年王立英国建築協会(Royal Institute of British Architects)より名誉会員の称号。2000年第56回日本芸術院賞受賞。公共建築賞受賞。2001年ロンドン大学名誉学位。2006年アメリカ建築家協会(AIA)より名誉会員の称号。第7回公共建築賞(大島町絵本館)、第九回公共建築賞(新潟市民芸術文化会館)。2016年より芝浦工業大学客員教授。